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記憶というのは、残酷なものだ。




「ガッシュ、魔界の時の記憶を返してもらって、なにか変わったことは有るか?」
そう聞かれて、一度は首を振った。
それは、清麿に心の内を見られたくなかったからでもあり、心配させたくなかったからだ。
確かに性格は変わっていない。
記憶が戻っただけで、自分を省みても何らおかしい所は無かった。
けれど。
(私は、変わってしまったのだ)
思い人の居ない部屋。その匂いの残るベッドに身を沈ませて、ただ天井を仰ぐ。
清麿が見ていたであろう景色を共有しながら、ガッシュは本当に小さな溜息をついた。
(どうして、こうなってしまったのかのう?)
問いかけても、自分の心が返してくるのは謎ばかり。
そう、至極簡易な謎ばかりだった。


記憶が戻ってきたと同時に生まれた、ある思い。


ずっと虐げられ、涙に溺れ、貪欲でありながらもその貪欲ささえも踏み躙られていた、己の過去。
満足だったといえば嘘になる、記憶。

友達が居ても心は満たされず、ずっと空虚な思いを覚えていた。


だから、自分には兄が、母が、父が居ると解った時、本当に充たされる思いがしたのだ。
それまで光を飲み込まんとしていた闇が、消え去ったのだから。
けれど、
それでも、
孤独という感情は消えなかった。



(皆には真に帰る場所がある。だが、私にはその帰る場所が解らなかった。有る居場所と言えば、私を物として見る、悲しい家だけだったのだ)

それを思い出してしまえば、友との距離も開いていく。
ガッシュには、それがたまらなく怖かったのだ。
(……記憶は、返して貰わぬでも良かったかも知れぬのう)
思わず苦笑が浮かんで、すぐにその笑みは消える。
今ガッシュの顔に浮かんでいたのは、暗い場所を見るような、暗澹としたものだった。
(そう……返してもらわねば……こう思うこともなかったのだ……)
目を細め、視界一杯に映った見慣れた風景を見る。
そこに居る筈の己の魂の片割れを思い、そのままガッシュは目蓋を閉じた。
……そう。記憶を返して貰わなければ……



(清麿を、こんなにも、縛り付けたいと思わなかったのに)



清麿の笑顔を見るたび、胸に去来するのは喜びと虚無。
充たされる思いのその後に、必ず、もう一人の自分が心の中で叫ぶのだ。
「その笑顔がもう二度と見れない日が、必ずやって来るんだぞ」と。
そう。それは、逃れられない運命なのだ。
いつか、自分達は離れ離れになってしまう。
どんなに愛しいと思っていても、清麿とは道を違えてしまうのだ。
その笑顔に救われ
その心に励まされ
その全てが
愛しくて、たまらないのに。



(もう、一人は嫌なのだ。清麿)

いつも一緒に居る相棒。
心優しい、自分のパートナー。
心さえも分かち合ったと思えるその相手が、消える。
心の殆どを占めているその人と、別たれてしまう。
そう思うと、身を引き裂くほど辛くて。
怖くて。
叫び出してしまいそうで。
「……私は、どうしてこう思うようになってしまったのだろうのう?」
ただ、記憶を取り戻しただけなのに。
「……いっそ……清麿を、ずっと縛り付けて居られればいいのに」



そうしたら、ずっと、一緒に居られるのに。



考えて、ガッシュは己に苦笑を送った。
「私は……本当に変わってしまったらしいのう」
大切にしたい、守りたいと思っていたはずの、愛しい人。
なのに今は、自分から逃したくなくて、捕えていたくて、たまらない。
全てを支配したくて、たまらないのだ。
「……清麿、お主がもし、私の心内を聞いたら、どう返してくれるのだ……?」
拒絶か
許容か
それとも
恐れか
「…………どれにしても、構わぬ、か」
呟いて、ガッシュは暗い微笑を浮かべた。
そう、どの反応にしても、構わない。
何であっても、関係ないのだ。

「私がお主を束縛する事には、変わりないのだからのう」



言って、ガッシュはそのまま、深く暗い眠りの底へ落ちていった。






記憶とは残酷なものだ。
経験と引き換えに、様々な闇を引き起こす。
今まで思ったことも無かったこの暗がりのような思いを、記憶は作り上げてしまった。
闇を、思い出させてくれた。




記憶なんて

失ったままでいれば

良かったのに。












(2007/04/27)
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