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無題

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 バカな奴がいるんだ



「清麿~」


とうに知り尽くした声が後ろから近寄ってくる。
嬉しそうに俺の名前を呼んで、何が楽しいのか足音を弾ませてくる。
俺はその声を聞きながら、知らぬ振りをしていた。


「清麿、ここにいたのか」


幼い声はもう立派な青年の声に成長していて。


「仕事は終わったのか」


棘のついた口調でそう問うと、珍しく自信満々な答えが帰って来た。


「勿論!全部終わらせて来た」


そう言われ、背中から抱き締められた。
冷えた体に、暖かい体温が流れ込んでくる。心地良い。
けれどそれを感づかれたくなくて、俺はまた問いかけた。


「じゃあ戦闘訓練は。」
「私はやらずとも強い。清麿も知っておろう」


…そう。
こいつは…誰よりも強く、気高く、勇敢で…優しい王。
誰よりも愛されて、尊敬されて、崇められる魔界の覇者。

……俺が隣にいる事など、きっとおこがましいであろう、貴き王者なのだ。


なのに




「清麿、散歩に行こう!」
「はぁ!?何でだよ。もうすぐ日が暮れるだろ?」
「だから行くのだ!幼い頃、魔界で一番星が見える場所を思い出してのぅ。隠れ家…とでも言うか…。それを清麿に見せたいのだ!」



ほら
なのに、こいつは俺をそばに置く



「いいよ…それよりティオとか連れて行ってやれよ」


苦し紛れにそう言うと、少し怒ったような声が聞こえてきた。


「私は、清麿だから連れて行くのだ。余人には、秘密の場所など教えたくない。私は清麿だけに……見せたいのだ」




「……ばか」




どうしてお前は、そんなセリフ言うのかな




「清麿、散歩に行こう」




そんなセリフ言われたら

拒めなくなっちまうじゃないか




「清麿。」






「…ああ」






俺は控えめにそう呟くと、抱き締めているガッシュの腕に手を沿わせた。






ホントバカなんだ
王様のくせに

俺なんかが一番大事で、
いつもはしゃっきりしてるクセに
俺の事になるとすぐバカになる。


本当にバカ





でも……
だから
俺はガッシュから離れられないんだろうな



だって、
別れて今以上にバカになったら、心配だから



俺もある意味
バカなのかな…





(2006/05/18)
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