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青春夕映

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「山中ー」

遠くから呼ばれ、山中は投げようとしていたボールをグローブに戻した。
思わず首を伸ばし、目当ての人がどこにいるのかと探す。すると練習場を下に見る土手にその人がいるのが見えた。

「高嶺…」

こちらが気づいたと解ったのか、相手は手を振る。
(お…)
いつもとは違う可愛い仕草に、思わず胸が高鳴る。
「何ボケッとしてんだ!!」
そうして見惚れていると、仲間からの怒声が耳をつんざいた。
「す、すんません!!ちょっとタイム!」
慌ててそう言いながら、山中は足早にマウンドを出た。


一目散に向かうのは、愛しい人の所。


「たっ、高嶺!」
切れる筈のない息。けれど今は心臓がバクバクと脈打ち、息は絶え絶えになっていて。
「山中」
微笑む顔が夕陽に照らされ、とても美しいと思った。
「今来なくても良かったんだぞ?」
申し訳無さそうに呟く清麿に、山中は笑顔で首を振った。
「いいって」
実際会いに来たのは自分なんだし。
呟こうとしたが、それは流石に恥ずかしいと思って止めておいた。
「それより、どうした?」
訊くと、清麿は少し躊躇って…おずおずと何かを差し出した。

「…これ」

渡されたのは、布に包まれた何か。
何か解らずそれを解いてみると…
「これは…」


タッパーに入った、レモンの蜂蜜漬け。

「そ、その…お袋が持ってけって…俺は女みたいだからヤだって言ったんだけど……」
夕陽で染まっているのに、それ以上に清麿の顔は真っ赤になっていて。
山中の顔に締まりのない笑みが浮かんだ。
「高嶺…」
「な、なんだよ」
またいつものような無愛想な表情に戻ってしまう清麿。
でも、可愛く思えてしまったりして。
「ありがとな。」
「……べ、別に」
また赤くなる顔が愛しくて愛しくてたまらない。

「おい山中ー!!何やってんだー!!」

「やべ、監督怒ってら…」
「抜け出してくるからだろ」
つっけんどんな口調に苦笑いして、山中はマウンドへ走りだした。

「あ、そうだ」

清麿が首を傾げる。山中は次の言葉に相手がどう反応するか解っていて、それを口にした。



「高嶺!待っててくれよな。後で、一緒に食おうぜ!」





最高の笑顔を見せた山中に、
清麿は、同じような微笑みを向けた。





「…遅いと帰るぞ」




嘘ばっかり。
山中は嬉しくて笑いながら、タッパーを落とさないように抱きしめた。








(2006/06/04)
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