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心には、コップがあるらしい。


「なんなのだ?それは」
ふと呟いた清麿の台詞に、ガッシュは首を傾げた。清麿は執務机に頬杖を付いたまま、少しばかり気の抜けた顔で答えてやる。
「いや、比喩なんだけどな。こう、心には感情ごとにコップが有って、湧いてくるその感情を巧く受け止めて、制御してるんだってさ」
仕事になるような物が無いので些か不満なのか、清麿は柔らかな陽光が降り注ぐその場所でゆっくりと目を瞬かせる。
いつもは仕事に追われているからであろうか。
ワーカーホリックだとガッシュは溜息を吐きそうになって、それは自分のせいだと怒られるのを予測して飲み込んだ。
「で、では、そのコップの許容量以上の感情が湧いたらどうするのだ?」
好奇心に駆られて問いかけた台詞に、清麿は少しばかりとろんとした目を向けて、それでもはっきりと答えた。
「そりゃ許容量オーバーって事で、感情が抑えきれなくなって、抑えたいのに止まらなくなる。湧くのが止むまでな」
面白い比喩だろ?とふわりと笑うその顔は、その曖昧な表情も伴ってか、どこか心を引き絞られる感覚を抱かせる。
どうやら彼は、暖かな陽光とこの有閑な時間のせいで睡魔を誘き寄せてしまったらしい。
日差しに仄かに照らされたその愛しい姿が、ゆっくりと揺らめいたのは見間違いでは無いだろう。
「ん……」
目蓋を擦る仕草は、自分より年下かと錯覚させるほど幼く、愛らしくて。
「………」

気付けば、

「……ガッ…シュ?」
陽光の暖かな光を邪魔せぬようにと回りこんで、彼の体を抱いていた。
「……今日は本当に珍しく、何もする事が無いのだ。……このまま寝室で昼寝でもすると良い。疲れも溜まっておろう?」
そのまま、光の熱を溶かした髪に口付けて、細い肩を抱けば、小さな唸り声が聞こえた。
「でも……まだ…何か……やっぱ、いい。ここに……」
断ろうとしているようだが、やはり睡魔には勝てないのか、その言葉は拙く途切れて。
ガッシュは立場が逆転したかのようなこの光景に苦笑半分、嬉しさ半分で笑うと、ゆっくりと清麿の体を抱き上げた。
陽光が自分と彼を緩く、優しく照らす。
「安心せい。今日は本当に何も無いのだ。起きたら起こしに来る。だから、寝ててもいいのだぞ」
「……なんで……?」
色んな意味を込めたその言葉。
暫しその意味の全てに答えようと考えたが、やめて、またキスを施した。
「私の、清麿を『好き』、という気持ちのコップには、今の清麿への気持ちが入らなかったようでのう。」
「なら……よっぽどお前のコップは…小さいんだろうな…」
そう言ったっきり、ガッシュの胸に体を預け眠ってしまった清麿に、ガッシュは苦笑して、ゆっくりと歩き出した。
「そうだのう。この感情のコップだけは、御猪口並の許容量らしいのだ」
だから、いつも好き過ぎて、たまらない。
感情を制御出来ない。
暴走するくらい、感情が溢れてたまらなくなってしまう。
「全く、私はコップを作り間違えたらしいのう」


それでも
幸せだと思ってしまうのは、それが彼に対する感情だからだろうか。


そう思って、ガッシュは部屋を後にした。



幸せのコップもまた、溢れるくらいの幸せを湛えているのだと、一人で微笑みながら。











(2006/12/04)
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