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サイトでの小話の収納場所です。企画と平行してUPしていきます。
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鋼の檻。それは稀有な洞窟。
幾重にも入口に張られたのは、結界である注連縄。
その奥には、何もない、暗闇。
ずっと、そうだと思っていた。

「お前は……誰だ」
感情など微塵も見られないその声に、清麿はビクリと肩を震わせた。
「お前こそ…誰なんだ?」
問いに同じ問いで返すと、暗がりに潜むその影は少しばかり身構えた。怒っているのだろうか。清麿はそう思い、背筋に嫌な汗が伝うのを感じた。
しかし、この封じられた洞窟にいる者がなんなのか。それを確かめない限り、清麿は帰れそうも無かった。
ただ「闇」だけだと教えられてきたその洞窟。そこに自称知的好奇心で侵入し、見つけた、暗がりの声と気配。
学者を夢見る少年には、その好奇心を抑えられそうに無かった。
「………」
声は暫し聞こえなくなったが、長い間を置かず、また無機質な声は届く。
「俺は…『忌まれたもの』。全てに厭われ、見離されたものだ」
「『忌まれた』…もの?」
声は無機質。
けれども、その奥に秘められた感情は、悲しみを物語っているかのように思えた。
そう。声の主である影自身が気付かない、気持ちが。
「……お前はこの洞窟には『闇』しかないと教えられていただろう。その通りだ。……ここには、闇しか無い。誰も好まない。そんな闇しか存在しない」
声は同じような言葉を繰り返し、そのまま黙り込んだ。
「……そんなことない。」
「…?」
清麿は、何故か、そんな言葉に黙っていられなくて。
「ココには、今、俺がいる。アンタだっているじゃないか。俺達は闇じゃない」
「……俺は人間でも無い。闇にもなれず……人間にも成れない……疎まれた存在だ」
決して己を肯定しようとしない。いや、肯定したくないという思いが込められたその言葉に、清麿はまた「そんなことはない」と吐き捨てていた。
同情の念か。それとも、憐憫の為か。
悲しみを内包したその影に、肯定するような事など出来なかった。
そんな清麿の言葉に、影は少しだけ笑い声を漏らすと、すっと片手を上げるような仕草を見せた。
闇が、晴れる。
「……!!」
天から射した光に現された姿に、清麿は瞠目した。

その姿は、人。
確かに人間の形を成していた。
唯一つ。

その掲げられた手が……


龍の腕のように
鱗を纏い、化物の手のようになってしまっている…以外は。



「そ…れは……」
驚きを隠せない清麿に、影…いや、白金の髪を逆立てた、清麿と同じくらいの少年は、無表情のまま答えた。
「この腕は、生まれつきだ。この腕で、この腕の能力のせいで、俺はここへ封じられた。ずっと…ずっと昔に」
「……!」
その言葉に、清麿は言葉を失った。
(だから…疎まれ、厭われて、ここへ封じられたってのか……!?)
先天性の、どうにも出来ないその「枷」のせいで。何年も、何十年も、こんな暗い闇に。
狂う暇も無い闇の檻で、この少年は…。
「だから、俺はここにいる。闇と同化できるまで……同化できれば、何も……苦しむことは無い」
自らこの檻を選んだわけでは無いのに。
それなのに、反抗せず、ただ、闇と同化できる人待ち続ける。
彼に何があったのかなど、清麿には知る術も無い。けれども、彼が一方的に押さえつけられたのは、言うまでも無い事実だろう。
だから、彼には、諦観の心しか無い。
感情が、なくなってしまった。
(そんなの……悲しすぎるじゃねぇか…)
誰にも愛されること無く、朽ちて行く少年。
残念な事に、清麿はそんな非なる道へ進む者を見送ることは出来なかった。
「だから、放っておいてくれ。俺は……」
「嫌だね!!」
「!?」
気が付けば、何の恐怖もなしに彼に近付き、その掲げられた腕を掴んでいた。
「……お前が全てに疎まれてる?嫌われてる?アホか。決め付けもいい加減にしろ」
「放せっ…」
少し背の高い少年を見る清麿の瞳は、彼の瞳を射抜かんばかりの強い意志を秘めて。
少年は思わず動きを止めた。
「何で誰もが嫌ってるって解るんだよ。だったら俺がどう思ってるかってのも解るのか?」
訊けば、すぐに気を取り戻したのか、答えが帰ってきた。
「決まっている。怒り、俺を忌々しいと…」
「はずれ」
ホントに卑屈だな、と睨みつけて、清麿は少しの間を置いて……顔を緩めた。
「……」
その顔は、柔らかな微笑。いや、苦笑も混ざっているだろうか。だがしかし、決して疎むような、厭うようなものは無く。
ただ純粋な行為だけで作られた、微笑だった。
「俺は、お前を嫌ってなんかいない」
「嘘だ」
「嘘じゃない。」
「恐いだろう」
「なにが?」
「闇を呼び戻すぞ」
「どうぞ?」
「俺は……」
「人間だろ?」
その言葉に、少年は言葉を詰まらせた。
「………」
「人間だろ。お前も」
微笑のままもう一度言えば、何とも言えない表情で相手は呟いた。
「……何故、俺を否定する……」
それを聞いて、清麿は大きな溜息を吐いた。
「あーーー……ったく…ホントに捻くれまくってんな……もう、まどろっこしい!!」
顔を思い切り顰め、次に起した行動は……少年を洞窟の出口まで、引っ張って行く事だった。
「お、おい!俺は……」
「喧しいっ!!あんなジメッとした所にいるからお前はそんな風に考えもジメジメしてるんだよっ!外に出ろ!」
「だが俺は行くあても、出る許しも…」
「俺が許す、俺が匿ってやる!」
清麿の簡単で、しかし強い言葉。
何度放そうとしても帰ってくるその腕。
そんな相手に、少年は驚き、そして、いつのまにか目を離せなくなっていた。
「……お前は……本当に…俺を、嫌っていないのか」
言えば、
「くどいっ!」
至極端的で、しかし否定など微塵も無い答えが帰ってくる。
「……お前…名は……?」
――やっと、そういってくれた。
清麿はぐいぐいと引っ張る腕を離さず、前を向いて、口を開いた。
「清麿だ」
少年は、その名前を聞いて、口の中で知らずに反芻していた。
「お前は」
清麿が、問う。
少年は相手の名前の余韻を噛締めて、何百年ぶりの己の名を、口にした。
「……デュフォー」


その名を呟き、見据えた先は、清麿と檻の外の明るい世界。
清麿は陽光を受けて少年を振り向いた。
その顔には、例えようも無い、優しい笑顔。


「デュフォー、か。いい名だな」


感情が消えた心に灯った、何か。
それが確かに、今、芽吹いた気がした。
彼にも、清麿にも。



日の光は、太陽は、そこに。




目を細めたデュフォーを見て、清麿は思い切り笑ったのだった。









(2006/12/23)
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