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サイトでの小話の収納場所です。企画と平行してUPしていきます。
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「……やっぱ、魔界でも冬は寒いんだよな」

当たり前だけどな、と溜息をついて、清麿は空を見上げた。
鉛色の曇天はずしりと圧し掛かるような暗さで、透明な雫を幾重にも落としてくる。その量は意外と多いもので、小雨と言えるような物ではなく、清麿にとってはスコールと言ってもおかしくはない物に見えた。
「……いつ止むかな」
溜息を吐いて、清麿は足元を見る。
石畳の上を勢いよく跳ねる雨が、靴に掛かる。幾らなんでもこのままだと、靴が危ない。あわてて一歩下がって、突き当たった壁に背中を合わせると、清麿はよわり顔で首を傾げた。

―全く、うかつとしかいいようがない。
自分一人ですぐ終わるような用事だったからと、天候も気にせずに城を出たのがいけなかった。
しかもすぐ終わると思っていた用事は意外に長くなり、終って帰ろうとしている時にはもう雨が降り始めていて。
結局酷くなって、この石倉の軒下に避難するしかなかったのである。

「……まあ、城の中だからいいけどさ。……しっかし、いつ止むんだこの雨」
狭く雨避けには適さない軒下。そこからそっと手を伸ばして雨を取ってみる。
空からの雫は手に細かな刺激を残して、あっと言う間に「水」となって地面へ落ちていった。……これは相当酷い。
雲の動きはなく、風が吹く気配もない。
このままでは、いつ帰れるか分からなかった。
「……いっそ濡鼠になって帰るってのもあるが……」
しかし、そんな事をすると水で後々大変なことになるし、なによりこの正装が台無しに成ってしまう。
一応高級品なのだ。汚したり濡らしてしまっては、修繕に大分時間と経費が掛かる。それだけは避けたかった。
「俺の不注意で税金を無駄遣いする訳にはいかん……」
庶民気質な清麿にとっては、税金がどれほど大変なお金かを充分出来るほど理解していたので、余計に行動に歯止めが掛かってしまっているのである。
しかし、これでは帰れそうにない。
どうしたものか。

途方に暮れて溜息を吐くと、息は白く空へと消えていった。
きんと冷える空気は、頬をぴりぴりと刺激して、下がる一方の温度は体を震わせた。
「……これで雪だったら、最高だったんだけどなぁ……」
呟きながら、手を擦り合わせる。
息を吐きかけた手は、少しだけ湿ったがやはり温まるには至らなくて。
出そうになった溜息を呑み込んで、清麿はふと思い出した。
「そう言えば、前にもこんな事あったよな」


そう。
自分達がまだ人間界に居た頃。
清麿は不意の雨で帰れなくなって、同じようにこうして学校の玄関で寒さに耐えていたのだ。
あの時の寒さとこの寒さは、似ているかもしれない。
「そうそう。んで、あの時も夜まで帰れねぇのかなって、ちょっと困ってたんだっけ。」
そして、ずっと雨を見ていたら。
「…………」
見ていたら。



「……あ」



青い色の大きな傘を掲げて、ゆっくりゆっくり、誰かがコチラに歩いてくるのだ。
その傘は、青空を写したように鮮やかな色で。灰色の冬の世界に一滴、夏が紛れ込んだように綺麗で。
その傘の隙間から覗く
「金色……」
そう。
金色の髪。
ソレはまるで、太陽のようだと、思えたのだ。


「きーよーまーろっ」


傘は軽快な声を発して、水溜りを羽のように飛び越しながら、軒下へとやって来た。
「あ……」
「なかなか帰って来ぬから、心配して探しに来たのだ」
傾いて、その中から現れたのは。
「ガッシュ」
「全く、清麿は肝心な所で抜けておるの!」
己を呼んだ清麿に、ガッシュは花のような笑みを見せると、清麿の髪に落ちていた雫を払った。
「なんで……ここが?」
少し驚いたように聞けば、ガッシュは白い息を吐いて笑う。
「分からぬと思うてか。私は清麿のパートナーだぞ?」
自信満々で、そうやってどん、と自分の胸を押すガッシュ。
暫しその様子を見ていたが、清麿ははっとわれを取り戻して、柳眉を逆立てた。
「お前な……執務はどうした執務は!」
「ヌ……いや、その……」
すぐに困り顔に変わる相手。またサボってきたのだと確信して、清麿は思い切り怒鳴ろうかと考えたが……やめた。
「……ま、いいよ。……俺が傘持って来なかったのが悪いんだし」
それに、こうやって迎えに来てもらう事は、嫌な事ではなかった。口が裂けても、こんなことは言えそうにはないが。
どこか満足げな表情を浮かべている清麿の心を推し量ると、ガッシュは何も言わずに微笑んだ。
「……帰ろう、清麿。みんなが待ってるのだ」
言って、傘を開いて、中へ呼ぶ。
その仕草がキザ過ぎて一瞬くらりと来たが、我慢して清麿は突っ込みを入れた。
「ガッシュ、もう一つの傘は?」
「ウヌ? 必要なかろう。」
「なんでだよ」
「愛し合うものは相合傘! 鉄則なのだっ」
そう言って、握り拳を作るガッシュ。真剣すぎて、殴る気力もなくさせる。いや、その言葉こそが、清麿の怒りを静めたのだろうか。
「……ま、いっか。」
呟いて大人しく傘に入る清麿に、ガッシュは驚き、しかしそれでも嬉しいのか頬を仄かに昂奮に染めながら、問いかけてきた。
「き、清麿? 何だか今日は…静かだのう」
「…………さあな」
些かムカつく言葉だったが、あえて流すことにした。
「行こうぞ」
肩に回された手にじとりと視線を向けて、清麿はそれからそのままの目でガッシュを見据えて、ぼそりと命令した。
「帰ったら執務再開な。三倍速で。」
「ヌ……ヌォオオオオ!!」
清麿の突き刺さる一言に、ガッシュは頭を抱え、反対に清麿は思い切り笑ったのだった。

肩を抱く相手の手が、暖かい。
体は既に震えなくなり、手だってとても暖かくなっていた。
(……あの時も、こんな感じだったな)
傘の隙間から覗いた、金色の髪。
大きさこそ違ったけれど、それは紛れもなく同じ人物で。
清麿に笑いかけて、「一緒に帰ろう」と小さな傘だけを持ってきてくれた。
その時も、相合傘をして。
こうやって、一緒に歩いて。
(……まだ暫く、止まなくてもいいかもな)
その時から変わらない互いの心は、今しっかりと結びついていて。
憎まれ口を叩いても、相手が大きくなっても、途切れることはなく。
(冬の雨も、いいかもな)
いつのまにか、雨は小雨になり、ささやかな音を傘に落として。


遥か昔の思い出を優しげに見つめ、清麿はそっと相手の肩に頭を寄せたのだった。









(2007/01/27)
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