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サイトでの小話の収納場所です。企画と平行してUPしていきます。
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「清麿」
何度、この名を呼んだだろうか。



「……ゼオン」
夕景の広がる世界。総てが紅に染まり、光でさえも橙になるその世界を、清麿はずっと眺めていた。
テラスから見えるのは、山脈と空のみ。
ずっと見続けてきたその世界を、ずっと彼は眺めている。
そして、自分もそんな清麿を、ずっと見ていた。
何時からこうしていただろうか。
気がつけば、清麿を探していて、ここで見つけて、こちらに気付いてくれるまで、ずっと待っていた。
何故、声をかけなかったか。
解りきったことだった。
「……やなとこ、見せちまったな」
そう言って、頬を、目を拭う清麿。
振り向いた瞬間のその顔は、今にも決壊しそうな感情を抱えて、幾重のもの光の筋を頬に伝わせた、子供のような顔だった。
――泣いていたのだ。
「いや、構うな。俺が勝手にお前を見つけただけだ」
ゼオンがそう言えば、相手は強がりの言葉を返して笑う。
「構うなって……構わねぇほうがおかしいよ。大人にもなって、こんなに泣くなんて……恥しいったらないよな」
無理に笑う顔が、心に痛い。
解っていた。相手が、無理に笑っているのだと。だから、余計に胸が締め付けられるようだった。
近付いて、清麿の頬にそっと手をやる。
清麿は突然の行動に驚いていたが、拒絶はしなかった。そしてそのまま、自分のなすがままにさせている。
それが、もっと胸の痛みを強くさせた。
「……構うな。泣いて当然だ。…………『ガッシュが遠征で負傷した』なんて知らせを聞けば、不安でたまらなくなる」
いつも一緒に居た。平和な時間に、傷なんて一つも無かった。だから、降って湧いたこの戦争で誰かが負傷するのが、愛しい者が手の届かない所で傷つくのが、耐えられなかった。
逢えない距離が、一層不安を増す。
心を弱くする。
ゼオンも、それは理解している。だから、今の弱い清麿を怒鳴る気になどなれなかった。
(……いや、違う)
怒鳴れない、のだ。
「怖い……怖いんだ……誰かが死んでいく、誰かが怪我をする……ガッシュが……ガッシュが死んでしまうかもしれない……もう、もうここには……戻って来ないかも知れないって考えたら……!」
知性に満ちた顔が歪む。
いつも背伸びをして、年齢以上の姿勢を保ち続けていた彼の仮面が、割れた。
途端に悲しげに柳眉を顰め、涙を湛えた瞳が現れる。口はどうにかしてこの感情を押し殺そうと歯を食い縛っていた。
「…………」
「ゼオン、ゼオン……! 絶対、ぜったい…………ガッシュは、帰って……くるよな?」
子供のように、目を瞑って涙をやり過ごそうとするその顔が、甚く悲しい。
気を張り続けて、城を守り続けていた清麿の我慢は、はち切れてしまったのだろう。
だから、自分に
自分にだけ、感情をぶつけた。
「……清麿」
手が勝手に動く。
衝動は感情を越え、心臓は高鳴っていた。
両腕は空を遮って、清麿の細い体を掻き抱く。僅か数秒の間に奔出した気持ちが、清麿を強く抱き締めていた。
「ぜ、お……」
「帰ってくる。……帰って……来る」

だから、泣くな。

呟いたその言葉は、感情の枷を壊した。
「……っ」
胸に染み込んで来るその熱と、涙が、体を熱くした。嗚咽を上げるその子供らしい泣き方が、心を揺さぶった。
自分にだけ見せる、その感情が、とても愛しかった。
けれど。

(……清麿は、ガッシュを愛している)

解りきっていたことだった。
……清麿は、ガッシュの為に泣いている。ガッシュの為に頑張っている。総て、彼の愛している王の為に……行っている行動だった。
だから、今までずっと頑張っていたのだ。
けれども。けれども、どうしても、感情を抑えることなど出来なかった。
愛しいものを抱く手に、力が入る。
肩を震わせる人が、己よりも脆弱な存在だと思い知るたび、愛しいと言う気持ちは増していった。
だが。結局、この人は。
(……ガッシュの物だ)
感情が壊れるほど愛しているのに、強く抱くほど思っているのに、この気持ちは届くことは無い。
これほど思っているのに、自分は所詮仲間でしか無い。
気持ちを抱えれば抱えるほど、辛いのは解っていた。けれど、我慢できなかった。
それほど
清麿を、好きになっていたから。
「清麿……」
抱き締めるその体は、自分よりも小さい。
胸に縋りつく姿は、自分よりも大人だという事を忘れてしまいそうで。
ずっとこうして、清麿の本当の姿を見続けたゼオンにとっては、その総てが本当に愛おしいものだった。
声が、掠れる。
壊れるほどの思いが詰まった呼びかけには、誰も答えはしない。
けれども、呼ばずにはいられなかった。
「ガッ…シュ……ガッシュ……!!」
相手が呼ぶ名は自分のものじゃない。
ずっと、ずっと、こんなにも想っているのに、この気持ちが届くことは、叶う事は、絶対に無い。
誰よりも、清麿のことを知っているのに。

(……ずっと……こうしていられたら……)



その願いも、叶う事は無い。



解っていながらも、そう願うことを止められなかった。







ずっと思い続けている。
ずっと、支え続ける。
愛しているから。
本当の姿を、知っているから。
笑っている彼を見るのが、一番好きだから。


だから、
苦しくても、辛くても
このままで、いい。
何度でも
名を、呼び続けるから



もう少しだけ
このままで、いさせて下さい。









(2007/03/05)
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