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サイトでの小話の収納場所です。企画と平行してUPしていきます。
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例え、道を違えても
貴方がいれば



「追手は!?」
「四人だ……チッ。お前がぐずぐずしているからだ」
森を駆ける風に紛れて、激しく木々を薙ぎながら走り続ける。
目は周囲を常に伺い、心臓は飛び出しそうなほどに脈打って止まらなかった。
空は宵闇。明かりとなる物などない森は己の姿を隠すが、同じように相手の姿も隠している。
手負いの自分が居る今の状態では、不利なのは明確だった。
「俺が術で迎え撃った方が……」
見つかってしまったのは自分のせいだ。
然るべき行為をしなければいけない、とゼオンに目を向ける清麿に、ゼオンは機嫌の悪そうな目を返すと首を振った。
「相手はお前の術を制する術を知っているだろうが。勝ち目が有ると思ってるのか」
「だが……」
自分のせいでこうなってしまったのだ。ならば。
まだ食い下がる清麿に、ゼオンはしばし無言だったが……。
足を止めると、清麿を手で押して転ばせた。
いきなりの行為に受身も何も出来ず、無様に地面に倒れる。何が起こったのか脳が理解できず、そのまま動けない。
そんな清麿を見て、ゼオンは機嫌の悪い、しかしどこか決心したような声音で、告げた。
「……俺が迎え撃つ。貴様はそこで横になってろ。邪魔だからな」
「――!?」
咄嗟に驚いた顔を向けるも、ゼオンはもう歩き出していて。
引き止めようとして体を起すが、足に痛みが走ってうまく行かなかった。
この前の傷がまだ完治していないのだ。
その傷に動きと止められた清麿を振り返りもせず、ゼオンはとうとう森の奥へと消えてしまった。
「…………」
消えた背中に、言葉を失う。
「ゼオン……」
掠れたその声に篭るのは、置いていかれたことへの怒りではない。
ただ、相手の身を案ずるような、悲しげな声音だった。
清麿はそのまま上体だけを起こすと、手を組み合わせて、ただ祈る。
今の自分に出来る事は、ただ、祈ることだけだった。
「ゼオン…………ゼオン……!」
夜が動いて、月が顔を出す。
仄かな光が自分を照らした事を感じ取りながら、清麿は瞼を閉じた。
「お願いだ……アイツだけなんだ俺を救ってくれたのは……アイツなんだ、アイツじゃなきゃ、俺は……嫌なんだ! だから……だから、死なせないでくれ……!」



最初の出会いは最悪だった。
会えば喧嘩の毎日で、ゼオンには良い所など無いと思っていた。けれど、出逢った時からゼオンを思わない日はなくて。
顔を合わせたくないと思う日などなくて。
彼の本当の思いや境遇を知ってからは、その感情は日に日に強くなって行って、堪らなかった。

望まずに神官となり、灰のようにさらさらと風化していくはずだった、心。
誰も己の心など知らぬだろうと、閉じきっていた思い。

それは、清麿と同じで。
境遇こそ違えども、同じ道だった。
それでもゼオンは自分に答え、籠から出してくれた。
自由を、思いを、くれた。
だから。



「だから……だから俺は、アイツに応えて行きたいんだ。アイツと、一緒にいたいんだ……」
運命の軛を壊し、宿命を踏みつけ、道を違えたとしても構わない。
進むべき道を逸れたとしても。
最期まで共に行くのだと、誓った人だから。
「お願いだ、ゼオン……死なないでくれ……」
耳の傍を通り抜ける暴風が、月光を奪う。
また、夜が動く。
風の叫びの後に続くは絶え無き攻撃の音。
その音を、ただ聞いていることしか出来ない自分が、もどかしい。つらい。
けれど、それでも、祈らずには居られない。
それほど、想う者だから。
「ゼオン……」
一掃の風が、音を奪う。
光は風に揺れて灯火のように激しく揺らめいた。
そして。


「……随分と……殊勝な声だな? 神子様よ」


待ち望んだ、その声。
「………!!」
歓喜を表わす顔の向けられた先には、傷を負い、それでも、勇壮と舞い戻った愛する姿。
「……泣くな、清麿」
言われて、泣いていたのかと気づく。
けれど、そんな事はどうでも良かった。
痛む足を立たせ、震える肩を抑え、よろめく体で、ゼオンに駆け寄る。
月は、その全てを照らしていた。
「遅いんだよ……!」
抱き締めたその背中は、ボロボロで。抱き締め返されたその腕は、傷だらけで。
「遊んでいただけだ。これくらいでどうなるものでもない」
それが嘘だと解っているのに、頷かずにはいられなかった。
「だったらもっと……早く、傷なしで、帰って来いよ……」
「……それが、戦ってきた奴に言う言葉か」
「……そうだよっ」
悪いか、と悪態をついて、口付けるのは血を滲ませた唇。
白と黒しか無い宵闇の色の中、その血の色だけは、ずっと、二人をその世界から隔てていた。
「行くぞ。……さっさと境を越える」
「でも……道が、解らない」
それにゼオンの傷もまだ良く解らないのだ。歩くことは無理ではないのかと瞳で問うと、ゼオンは冴えた目で、こちらをみた。
「俺が道を違えると思うか」
「……」
暫しの沈黙。
だが、清麿は血の付いた口に笑みを浮かべると、言ってやった。
「思う。……でも、それでも、構わない」
その言葉にゼオンは――笑った。
「……行くぞ」
夜は絶え間なく動く。
月は陰り照らす。
道など無いような、道。
例えそれが間違った道だとしても
(俺は、お前となら……お前と一緒なら……後悔など、しない)



どんな困難な道だろうと
ゼオンと一緒なら

越えてみせる

だから





(お前は絶対に、死なせない)




清麿の密やかな誓いは、風の嘶きにまぎれて消えた。











(2007/04/05)
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