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「おい」

夜も更けて、街の灯も散り散りになった頃。


明かりのない部屋のドアをそっと開けて、いやにしゃんとした子供が入ってきた。
月の光に染まった銀の髪に、菫の艶やかな紫を映した瞳。ただ無粋だと思うのは、その大人びて、どこか厭世的な表情のみ。
そんな容貌の子供――ゼオンは、先程から窓の外をぼんやりと眺めている清麿に呼びかけた。
「何をしている」
清麿はその問いに目を動かすこともなく、月灯りにぼんやり照らされる影を保ちながら、小さく口を開く。
「外をみてるんだ」
短い答えにゼオンは眉を顰めたものの、そのまま小さな足音を立てながら、清麿に近づいてきた。
「ガッシュは?」
言われて、眉間の皺がより一層深くなる。己の名よりも先に、双子の弟の名を出されたのが気に入らなかったのだろう。
けれどもゼオンはフンと鼻を鳴らすと、その問いに答えてやった。
「寝た。俺がいないのも知らない」
「そっか……デュフォーは?」
訊けば訊くほど、ゼオンの顔は不平を体現した表情になっていく。
夜だから怒鳴りはしないものの、かなり怒っていることは知れた。
しかし、清麿はそれを見もせずに、答えを、空を見ながら待っている。
「……夜の散歩だそうだ」
語尾に怒りが満ちている。
吐き捨てるようなその声を聞いて、ようやく清麿は苦笑した。
そうして、ゆっくりと顔をゼオンの方を向ける。
「えらくご機嫌斜めだな」
「誰のせいだと思っている」
恨みがましい目で睨むゼオンに苦笑したまま、清麿は椅子をくるりと回転させて相手のほうへ直った。
清麿の顔には、外の緩やかで仄かな光が影を与えている。
そうして微笑む様は、どこか大人びていた。
「で、ゼオン。どうした?」
優しい声音に、何故か険しくなっていた顔が緩む。その事が不思議でならないのか、ゼオンは不可解そうに口をへの字に曲げながら、何でもないように告げた。
「お前と寝るからココに来た。決まっているだろうが」
当然だろうが、という態度で、清麿を高飛車に見上げてくるゼオン。
清麿は常々、なぜこんなにもこの子供の思考が解らないのかと悩んでしまう。
話しも意思疎通も問題なく行えることはとても良いことだが、相手の考えていることや言動が解らないのは困りものである。
少しだけ困ったように顔を歪めると、清麿は口を開いた。
「お前……恥しくないのか?」
普通、こんな性格の者だと、恥ずかしがってそういう事は言い出せないはずだが。
しかし、ゼオンは片眉を上げると、訝しげに返した。
「何故俺が、当たり前のことを恥しがる必要がある」
(ああ……そうか)
この子供は、自分がゼオンと寝ることは当然だと、それが拒否されることはないと思っているのである。
だから、こうも居丈高に言える訳か。
清麿はそう思って、少しだけ不満を覚えたが、それもすぐに消化した。
「ま、いいか」
肩を少しだけ揺らして首を傾げる清麿を身ながら、ゼオンは腰に手を当てて、イラついた様子で急かす。
「何をぼやっとしている。俺は眠いんだ。さっさと床に就け。……それとも、他の事がしたいのか」
「あーあー、解った解った」
こういうところが油断ならない。
清麿は空返事のような声を出しながら椅子から立つと、ベッドへと向かった。
そうして後ろを付いてくる小さな影に目をやりながら、そっと笑う。
(でも……何だかんだ言って、まだゼオンも子供なんだよなあ)
優しげな苦笑の入り混じった笑みを浮かべて、清麿はそのまま、ゆっくりとゼオンを招きいれた。




「清麿、俺とお前が一緒に寝ていると言ったら、あのバカはどんな顔をすると思うか」
「そうだなぁ……泣きっ面になると思う」
「それは楽しみだ」
ベッドの中。
布団の作った暗闇で、二人はそっと笑い合う。
――結局、なんのかんの気に入らない台詞で命令されても、自分はこんな時間が好きらしい。
だから、ゼオンを嫌がりもせずに招き入れるのだろう。
清麿は己の心の広さに呆れながら、その心地良い子供の体温を甘受することにしたのだった。











(2007/04/21)
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