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「おーいガッシュ、ミニドーナツ喰うか?」


そう言って、ドアを開けたのが数秒前。
自分にしては結構楽しげな声だったなと思いつつも、それが今のこの状況を誘引するかまでは予測しなかった。
「……お前……そんなにドーナツ食いたいか」
清麿が呆れた顔で見下げるそこには、目をキラキラさせながら、清麿が持っているそれを見つめるガッシュ。
子供が菓子好きというのは相場が決まっているが、それにしても数秒でこの対応というのは、少々おかしい。
しかし、その当の本人はそんな事は関係ないようで、清麿とドーナツを交互に見比べながらぶんぶんと腕を期待して振り回していた。
「清麿っ清麿っ早く食べようぞ!」
言うガッシュの口は、涎が垂れている。
やはり子供だな、と微苦笑して、清麿はそれをテレビの前の床に置き、自分も同じように座った。
「砂糖とかついてるから、食べ終わったらきちんと手ぇ洗いに行けよ」
「ウヌ! 解ったのだ」
そう言うや否や、一つ目を大口を開けて放り込むガッシュ。
満面の笑みは可愛らしいが、小さなドーナツにそこまで口を開く仕草に、どことなくおかしさを感じた。
相手が美味しそうに咀嚼する様を見やり、清麿もその小さなドーナツを摘む。
小麦色にこんがりと焼け甘い芳香を漂わせるそれは、店で買うような少し硬いドーナツではなく、どちらかというと菓子パンに近い柔らかさだ。
その優しげな色に、砂糖の透明な白が映えている。
一口放り込んで広がる甘みに、清麿も口の端を吊り上げた。
「あー……それにしても、久しぶりだな」
昔はこういう物も食べていたっけ、と思い出しつつ、意識はテレビにそれる。
テレビはガッシュの大好きなヒーロー番組も終り、今は報道特番が枠を独占していた。
ガッシュには解らないだろうが、世事に関しては情報の遅れを取りたくない清麿にとって、それは見入るに値するもので。
いつの間にか視線だけテレビに向いて、手が勝手にドーナツを取るような姿勢になっていた。
「…………」
そんな清麿を、少し前からガッシュはじーっと見つめていた。
指に摘まれて、そのまま目線も外さない清麿の口にドーナツは放り込まれていく。
ガッシュは暫し、そんな光景を見ていたが。
「…………」
清麿の指が次のドーナツを取って、引き上げようとした時。
「ウヌっ」


その摘んだドーナツを、指ごと、ぱくりと食べてしまった。


「ひぁあっ!?」
それに驚いたのは被害を被った清麿で。
いきなり指にぬめった感覚を覚えて、変な声を上げて驚きながらそこを向く。
「ガッシュッ! 何やってんだテメェっ!?」
あまりの突然の出来事に頬を紅潮させて怒鳴る清麿を見て、ガッシュは悪戯が成功したような笑みを浮かべて、口を指から離した。
「清麿があまりにもテレビに見入っておるのでの……ちょっと驚かせてみたかったのだ!」
「だからってお前な……!」
と、言いかけて、更に顔を真っ赤にして言いよどむ清麿。
その先が言いたかったのだが、どうしてもそれは言葉にならなかった。
何故なら……とても、清麿が怒鳴れるような台詞ではなかったのだ。

(だからって……一々指に舌を絡めてくることないだろこのバカ!!)

そう、ことも有ろうか、ガッシュはドーナツを掠め取る時に、清麿の指にワザと触れていったのである。
絶対に、ワザとだ。
ワザととしか、言いようが無い。
しかし、本人は素知らぬ顔で笑いつつ、ただ無邪気にドーナツを頬張るだけで。
「どうしたのだ? 清麿」
首を傾げる顔に浮かんでいる表情が、普通の笑顔なのか、したり顔なのかさえ解らない。
「…………性質悪い……」
天然でも、意図的でも、どちらにしろ始末に終えない。
清麿はそう思いながら、憮然とした顔でまたドーナツを口に放り込んだのだった。









(2007/04/30)
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