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手を触れても、結界は壊れなかった。
ただ、触れた所に波紋を残し、水のように平静を取り戻す。鎖までつけられたそこは、とても厳かな場所にも見えた。

「この本棚、なんでこんな厳重に…」

疑問が湧いたが、その本棚には触れる事など出来なかった。

「この鍵を外せば…」

そう言って触れる。鍵は僅かに光っただけで、開きもしなかった。

「…呪文が必要なのか?」

ある特定の鍵は呪文で開くようになっているという。確信はできないが、鍵穴が窪みにしかなっていない所からそうとしか考えられないだろう。

「確か…ガッシュが言ってたな」

前、ガッシュは真面目な顔でこう言っていた。
『良いか清麿。私達は同じ魂を持っておる。だから私だけの呪文をお主も使う事が出来るのだ』

「まさか…な」

清麿は緩く笑むと、そっと鍵に手をやった。
そして…


呪文を口にした


途端

「!!?」

鍵が光を放ち、崩れ去った。
バラバラと鎖が解け、シャボンのように幾重もの結界が軽い音を立てて弾けた。

「……」

ただ、本棚の周りだけが茫洋と光っていて。
足が、知らずに歩みだしていた。

本棚には、数冊の本。中には清麿が読めない文字を刻んだ本が並んでいる。


「…あれ?」

その中に、一冊だけ理解出来る本があった。


その題名は







『宰相の歴史書』






「…!!」

清麿はその本を取ると、急いで机に本を叩きつけた。ばらりとページを開いて、最初の頁に目をやる。額にいやな汗が伝った。

そこに記されていたのは






『魔王の為に連れ去られ
利用され
魂を奪われた

哀れな人間達の歴史を記す』







「そ…んな」



その言葉が
胸に突き刺さった






やはり自分は魔王のために生かされていた
使われていた
ただの



「贄」







「そんな…」



嘘だって言ってくれ

利用するために連れてきたのではないと
殺すために生かされているのではないと
お願いだから
そう言ってくれ




「ガッシュ…」




けれど
それが きっと
揺るがない真実。







目の前が真っ暗になる
涙が頬を幾重にも伝った。





もう、希望の光さえも見えなくなっていた。
そう、愛しい人の顔さえも






「ガッシュ…!!」








最後の希望だけは
捨てたくなかったのに












(2006/05/29)
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