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アリス

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長い夢を、見ていた






「王…魔王…」
「ん…」

人工の光だけが照らす部屋。微睡む視界に面白みもない景色が映り、ガッシュは目を細めた。

「魔王、どうなされたのですか」

側近が心配してこちらを気遣った。

「いや…少し、寝ておったのだ」

にこりと笑い、ガッシュは名前も知らない部下へ愛想を振りまいた。
側近は少々頬を染めながら、おずおずと訊いてくる。

「あの…どのような夢を見ていらしたのですか?」
「ん?」
「いえ…あの…とても心地良さそうなお顔をなさっていたので」

萎縮する相手に苦笑して、ガッシュは答えてやった。

「ああ。とても心地よかった。素敵な夢だったぞ」

そして、それきり口を閉じた。
夢の話をする気など毛頭無かったからである。
だが、ガッシュの顔は満足そうな表情に満ちていた。
そして、心の中でポツリと呟く。


(誰にも教えるものか)





そう
その夢は、まさに「夢」だった。





ただ広い草原。
そこには自分と、清麿だけ。
縛る物は何もない。城も、民も、国も……掟さえも。



ただ、広い空の下で、二人きり。



そこで何ものにも捕らわれず、笑って、泣いて、互いだけを見て……






(出来るはずも…ないがのう。)

苦笑して、ガッシュは再び目を閉じた。
また、夢を見られるように願って。







長い夢を見ていた。
幸せな夢を。
だけど、それは夢。
決して叶わない…夢



叶わないならば、永遠に夢を見ていた方が良かったのだろうか。
現実など、忘れてしまえばよかっただろうか?





考えて…目を見開いた。





いや、駄目だ。
夢では、駄目なのだ。


(清麿は…夢などではない……ちゃんと居る。…私の傍にいるのだ)


虚ろに揺らめく瞳が確かな光を灯す。
…暗澹とし闇を秘めた…鈍い光を。




(誰にも渡してなるものか。ゼオンにも、ティオにも、思い出にも…全部)




清麿も、清麿の気持ちも…





誰にも、渡さない





夢から覚めて見た現実は、
御伽噺よりも美しく…残酷に見えた。







そう。
自分がその残酷な物語を紡ぐ
一番残酷な者と


自覚しながら








長い夢を見ていた
けれどもう
夢は見ない






夢など、
闇に消えてしまえ










(2006/06/02)
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