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夜の帳は落ち、既に灯りは星。月も顔を出す事は無いこの晩は、彼らにとっては神に感謝すべき夜だった。



「ハァッ……ハァ、ハァ……ゼオン、俺達……どこまで走ってきたんだろうな?」
息を切らせながら、清麿は草の上に座りこんだ。辺りは鬱蒼と茂る木々の壁。遠くに見える町明かりは、星の光のように小さかった。
その光景を見ながら、振り返る。
そこには、微かな星明りに光る美しい銀色の髪を靡かせた、神官が立っていた。
「……他の街へ行く街道の分岐点だ。まだ町は近い。疲れたのか?」
いいながら片眉を上げる相手に、清麿はムッとした顔を披露する。
態度からしてコチラを嘲笑っているのが見え見えだ。
「……ンなこと……ある訳、ねぇだろっ!!」
コチラよりも年下だと言うのに、ゼオンは自分より背も態度も大きい。いや、大きすぎる。
清麿はそう思いながら、憮然とした顔を隠しもせずに立ち上がった。息は切れているが、限界ではない。
睨みつけてくる清麿を見て笑うと、ゼオンはとある方向を向いた。
「明日までに境を越えるぞ。ここからなら、すぐに他へ逃げられる」
少ない荷物を背負いなおし、こちらに冴えた紫の瞳を向けるゼオン。
それを暫し見やって、清麿は歩き出そうとした。が。
「痛ッ……!」
異常なほど痛んだ足に、バランスをとられて倒れこむ。一瞬何が起こったか解らなかったが、左足がズキズキと痛んでいることに気付いた。多分、神殿の壁を飛んだ時に、足をどうかしたのだろう。目を見開いた清麿に、ゼオンは屈みこむ。
「どうした」
覗き込んでくる相手に、清麿は一瞬全てを話そうとしたが、それをやめて立ち上がろうと首を振った。
「い、いや……何でもない。……それより、先を……っぅ……!」
起き上がれる、と思ったら、また足が痛み転んでしまう。疼痛とも鈍痛ともつかないそれは、清麿の足を腫上がらせて己を象徴していた。それを見つけて、ゼオンはふう、と息を漏らす。
「足を痛めたか。……何故、先に言わん」
どうせまた、ちくちくと嫌味を言われる。そう思ったが、逃げられる足もないので、清麿は眉を顰め弁解した。
「気付かなかったんだ。必死に走っていたから。……平気だ、まだ歩ける」
いいながら立ち上がる清麿。また何か嫌味を言われるのは御免だった。
しかし、ゼオンはそんな清麿をみやり。
「お前は、本当にあの聡明な神子か?」
呆れたようにいいながら、清麿の腰をぐっと掴んで、引き寄せた。
「!! なっ……何を……」
と言う間に、清麿はなぜかゼオンに背負われていた。勿論、荷物は清麿の背中に移動している。驚いてゼオンを見ようとするが、背中からでは横顔ぐらいしか見えなかった。
「あのまま歩かれても迷惑だ。こんな足では明日境を越えられるかも怪しいからな。それに、悪化しても今の俺には治癒術は使えん」
そう勝手に言い放って、ゼオンはまた走り始めた。
軽快な風が頬を撫でていく。その心地を味わいながら、清麿は少しだけ怒ったような顔をして……表情を和らげた。
「…………すまん」
体を預ける広い背中。暖かいその温度に酔いながら、清麿は深く体を寄せた。
ゼオンはそんな清麿の心を読み取っているかのように、ぼそりと呟く。
「……後悔は、してないか」
「え?」
不意に問いかけられた言葉に、清麿は目を見開いた。
「……俺と逃げて、本当に、後悔はしていないのか」
背中から伝わる鼓動が、早くなっているのが解る。
ゼオンは、隠しているのだ。自分の思いや、感情を。
――清麿はその思いを読み取るようにして、頬を背中へと押し当てた。
「……後悔、してないよ。……俺はお前と居たいから……お前と生きたいから、逃げたんだ。あんな牢獄から……だから……後悔なんて…………してない」
熱が頬に伝わる。熱くなった体を、冷たい風が冷やしていく。それはとても気持ちが良くて。
いつの間にか、目にまで伝わった熱が、溢れ出そうになっていた。
けれど、それを拭うことはできず。
ただただ、清麿は相手の背を抱きしめた。
「……そうか」
ゼオンは、それだけしか言わない。
けれども、相手がどう思っているのか、どう清麿を想っているのか、それはきちんと心に届いていた。
世界の知恵を知り、神の力を貰い受け、その賢さ故に国の『物』と成り果て朽ちてゆく筈だったこの身体。
閉ざされた空間で、ずっと一人で生きていくのだと思っていた、人生。
それを、ゼオンは変えてくれた。
人も、希望さえも信じられなくなっていたこの心を紡ぎ直してくれたのは、誰でもない。ゼオンだった。
だから。
「お前が……好きだ……」
目から溢れる涙という熱。己の腕にそれを染み込ませ、ただひたすら震える喉で、そう呟いた。
これが、この思いが、この行動が、どれ程愚かで罪深いものか解っている。運命を捻じ曲げた事が、どれほど大変なことか、理解していた。けれども、ゼオンを好きにならずには……居られなかった。
「お前を連れ去ったのは、俺だ。今なら、俺だけが逃げてお前をココへ置いておけば、双方繋がりは切れる。お前は罪を問われもしない」
清麿を背負うその腕に力が入るのが解った。
涙で霞んだ視界に見えたゼオンの横顔は、とても辛そうに映る。
「ゼオ……ン」
「だがな」
そういい、ゼオンは足を止めた。
風が止む。
「……?」
不安げに眉を寄せた清麿を降ろし、ゼオンは腰を屈めて、清麿の頬に手を触れた。その熱さに清麿は目を見開き、ゼオンを瞳に映す。
総ての時が、止まっていた。

「俺は、それを、行うようなことは出来ん」

呟いて、その体は清麿に向かって傾いだ。
その腕は再び清麿を抱き締め、体を包む。そしてそのまま、ゼオンは清麿の唇に、自分のそれを乱暴に押し当てた。
熱く、らしくもない熱情を込めた、キス。
語られぬ思いを再び注がれる思いで、清麿は強く抱きしめられた腕に答えるように、ゼオンを抱き締め返した。
「お前が他の者に奪われたら、そいつを八つ裂きにしてやる……お前が余人に触れられたら、そいつを殺してやる…………一生、誰にも渡さん。だから……絶対に、お前を離したりはしない」
言い、噛み付くように首筋に口付けた。
その熱も、思いも、染み込んでくるようで。いやと言うほど清麿を思っている事が伝わってきて。
清麿はなすがままになりながら、ずっと、星空を眺めて泣いているしかなかった。

「ゼオン……」
呼ぶ名は、かつて神官だった者。
「……清麿」
呼ぶ名は、かつて神子だった者。
だが、もう、今は「かつて」のことなど関係ない。
進むのだ。必ず、ここから出て行くのだ。


もう、二度と離れ離れにならないように。
二人で、必ず幸せになる為に。


「ゼオン……二人で、ずっと二人で居られる場所に、行こう。絶対に、二人で」
「……ああ」
互いに繋がった思い。熱を分け合う、その身体と心。
籠という名の場所を逃げ出して望むのは、引き離されることの無い場所。
幸せになれる、場所。
だから、絶対に、逃げ切る。離れたりはしない。




清麿の目にゆらゆらと映る町明かり。
それはずっと、清麿の瞳に灯っていた。









(2007/03/18)
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