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それは、言葉にならないほどの眩さ。



夜がもうすぐ明ける。
薄っすらと光に染める空を見上げ、ゼオンは目を細めた。
「……夜が明けるな」
声量を落とした密やかな声でそう呟き、今度は己の胡坐を掻いた足を見る。
片方に一つ、頭が乗っていた。
だが、それは勝手に載せられたものではなく、自分が勝手に置いたもの。不平も何も無い吐息を漏らし、ゼオンはその頭をそっと動かした。
「…………」
角度を変えると途端に現れる、子供のような可愛らしい寝顔の少年。
ゼオンはその姿を見やり、口のみを優しく歪ませた。
「……よく、寝ている」
優しい声で呟いて思い出すのは、この少年が神殿に閉じ込められていたあの時のこと。

――あの時は、彼は夜番で就いていたゼオンを睨みながら、ずっと眠らずにいた。

自分以外の総ては敵だとでもいうように、全てを睨みつけ、警戒し、決して弱さを見せなかった。
最初はそんな態度の少年――清麿には良い思いを抱かなかったが、今となるとその考えは何とも愚かなものだったと思える。
「そうでなければ、連れて逃げはしない」
大きな掌でその漆黒の髪を梳けば、それはすぐに指の間から滑り落ちる。柔らかく心地良いその感覚に目を細めて、ゼオンはただ、安らかに眠る清麿を眺めていた。


彼の背負っている運命は、知っていた。
国の宝として一生を籠の中で過ごし、その力を国の為に使う「物」。
それが、彼の運命だった。
両親とも引き離され、その力のせいで捕らえられた清麿は、感情を無くし誰も信用しなかった。
けれど、それを最初から知っている訳ではなく。故にゼオンはずっと、清麿と大人げの無い喧嘩をしていた。
(今思えば、天邪鬼だったのかもしれんな)
一目見たときから、魅入られたかのように目を離せなかった、この姿。
凛々しくも何処か悲しげな、清麿。
どこか繋がる様な感覚がして、ずっと目が離せなかった。
だから、こんな風になったのかもしれない。


ゼオンはそう一区切りつけて、小さくなってしまった焚火を消した。
すえた臭いがして、白煙が控え目に現れて消える。
朝がやってくる独特の空気を少しだけ吸い込んで、ゼオンはまた空を見上げた。
(魅入られた……か。……まあ、それでも構わん。俺は今、一番”生きている”気がするからな)
愛しいと思う者を守り、その腕に掻き抱いて、夢へと走る。
今までの死んだような自分には見えなかった、今の景色の鮮やかな事。
それは、昔なら考えられないほどで。
総ては清麿と出逢ったからこそ、見れた景色だった。
(朝がこれほど待ち遠しいと思ったことは無いくらいだからな)
自分の心は、清麿のせいで大幅な模様替えをしてしまったらしい。
怒るどころか苦笑の沸くその事実に顔を歪めながら、ゼオンは大きく息を吐いた。
冷たい空気も、この空の色も、森が影から翠へ変わっていく景色も、皆総て美しい。
灰色の世界だと思っていた総てが、清麿によって、色のある世界へと塗り替えられていった。
「ん……ゼオ……ン?」
仄かに山の間から漏れる光に気付いたのか、寝ぼけ眼を擦りながら、清麿が目を覚ます。
その仕草が可愛らしいと思いつつも、口はお決まりのように別の言葉を放り投げていた。
「やっと起きたか。お前は寝坊が趣味らしいな」
言うと、相手が頬を紅潮させながら反論してくる。
「なっ……んなワケないだろ! っていうか、まだ早朝じゃないか、お前が早起きなだけだ!」
「お前が早く起きれば、その分距離を稼げたんだがな」
と、意地悪く言うと、口を尖らせて言葉に詰まる相手。
……これがあの凛々しい神子なのだから、堪らない。
しかし、そんな清麿だからこそ、ゼオンはかけがえが無いものだと思えたのだ。
相手が完全に目が覚めたのを見取って、立ち上がった。
「清麿、行くぞ……今日こそ、境を越える」
「お……おう」
慌てて立ち上がる麗しい神子に、ゼオンはまた憎まれ口を叩こうとして……
やめた。
「清麿」
「ん?」
ただ名前を呼ぶだけで、相手は寄り添い、こちらを見てくれる。
色をくれたその瞳が、自分を映す。
曙光が緩やかに昇り、清麿の頬を照らすのを見て――ゼオンは、言った。
「……必ず、越えるぞ」


思いの半分も言えていない、台詞。
本当に伝えたい気持ちに届かない、陳腐な言葉。
けれども、清麿は。
「……ああ、一緒に、絶対一緒にな」
陽光にも似たその笑顔を、自分にだけ、向けてくれた。


希望の曙光にも似た、眩いその笑顔。
色を取り戻してくれる、その眩い存在。
清麿がいるだけで、言葉にならないほどの想いが、愛しさが、新しい世界が、広がってくる。
もっと、好きになっていく。



「……行くぞ」
「ああ」

俺は、その存在を守る。
その存在と共に有る為に、ここにいる。


ゼオンは清麿の手を取ると、そのまま前を見て、歩き出したのだった。








(2007/03/24)
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